家族の絆について

お盆の帰り舟

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日本では“お盆”というしきたりがあって、
三日間だけ精霊船に乗って生家に戻れるという。
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ここはうす暗いお船の中。
たくさんの人たちが静かにおうちに向かって乗っている。
みんなどんな気持ちでおうちに帰るのかな?・・・三日間の里帰り。

お船のはじっこで、おじいちゃんがおばあちゃんの背中をさすっている。そのおじいちゃんの目には涙があふれているのがわかる。だって、ここに来て「おばあちゃんの長年の体の痛みが消えて、その上、お話も昔のようにできるようになった」って喜んでいたからね。もうお世話もしなくてよくなって楽しい老後だね。
そして今から帰るおうちには、孫が12人も待っているらしく、二人ともすごーく、優しい顔しているんだ。きっとおじいちゃんの大好きなおだんごを作って、二人の帰りを待っているんだろうな。

こっち側で、静かに本を読んでいるお兄ちゃんは、僕のお兄ちゃんと同級生だったんだって。だから近所の隠れ家もよく知っているし、いつも僕と遊んでくれるんだ。
お兄ちゃんは学校が大好きで、たくさん本を読んだりみんなと仲良く遊んだりいろんなことをやりたかったらしいんだけど、いじめを受けるのがこわくて、つらくて苦しくて、逃げ出したんだって、くやしそうにいつも言うんだ。・・・「お母さんにだけは心配かけたくなかった」と、ぽろぽろ涙を流しながら、僕に話してくれたんだ。今日はお母さんの胸でしっかり抱きしめられて眠るんだろうな。僕みたいにね・・・。

そういえば、隅っこでないてたあの子は「帰りたくない」ってお船に乗りたがらなかったんだ。そりゃそうさ。一番信頼していたお母さんに、橋の上からつき落とされたんじゃ、こわくて帰りたくないよ。
やっとみんなで乗せた船で、しゃくり上げながら「何で私を突き落としたの?」って何度も言って泣いていた。かわいそうに・・・。オニのようなママは、きっと待ってなんかいないだろうな。あの子はどこに行くのかな?

あそこで後ろ向きに座って暗いお顔のおじさん。大学生と高校生の息子がいて「みんなに合わせる顔がない」とすまなさそうにつぶやいていた。自分が一番と思っていたみたいだけど、仕事の事でノイローゼっていう病気になり、自分の苦しみから逃げ出す時、家族の事は考えなかったんだって。「我が子の将来も考えず、すまなかった」とも言っていた。

その横のおじさんは確かおばあちゃんのお兄さんで、行きたくない戦争で無残にも殺されたんだ。残した家族が忘れられずに、「千人針もお金も要らなかった。ただ家族団らんの幸せを続けていきたかった」とくやしそうにしている。
「出征の日に母が炊いてくれたかぼちゃ。『かぼちゃしかないけど』とお膳に載せて出してくれたのを、ただただ無心に食べた。最後のおふくろの味。おいしかった。」と静かに涙を流していたよ。毎年この日になるとおばあちゃんがぼくに話してくれていたから、よくわかったよ。

このお船にはまだまだ、たくさんの人が、色々な想いを胸にかかえて、今日、おうちをめざすんだ。生家では待っている家族もあれば、相変わらずいつも忙しいと迎え火もたかずにいる家族もあり、いろんな想いがお船の中にはいっぱいだ。

そういう僕も、今日は大好きだったお母さんの手料理をみんなでなかよく食べるんだ。お兄ちゃんたちと一緒に遊んだ花火や水遊びもしようかな・・・。そう思っているうちにお船が着いた。

あの日、ぼくが猛スピードの車に跳ねられて、臨終を告げられた時、お母さんはお医者さんにしがみ付いて聞いていたね。「先生、跳ねられた時、この子は痛みながら死んだのでしょうか?苦しんで死んだのなら、悔やんでも悔やみきれません!それが子供を守れんかった母親への天罰ですか!!!」と泣き狂っていたよね。
「お母さん、痛くなかったんだよ。そのとき僕はね、お空からみんなを見ていたんだ。大好きだったおじいちゃんに手を引かれていたんだよ。あの日から15年・・・早いものだね。」

最近やっと元気になった母さんだけど、毎年落ち込む日があるんだよね。それは、僕の誕生日と命日とそしてお盆の最後の日。特に僕の誕生日には、家族でおぶつだんの前に集まって、バースデーケーキにキャンドルを灯し、みんなで歌ってくれるけど、最後は涙で歌にならないんだよね。僕は知っているよ。
ずっと5歳のままの僕だけど、バースデーケーキのキャンドルは毎年1本ずつ増えていっているんだね。忘れずにお祝いしてくれてありがとう!
今夜はしっかりお母さんに抱っこされて眠るよ!だっていつも僕のこと思い出して泣いているから、今夜は僕が涙をふいてやらなくちゃ・・・。

そして3日が過ぎ、お迎えのお船がやって来た。
「僕、もういかなくちゃ。」
するとお母さんが「待って!まだ何にもしてあげて、、、」と泣き出した。
「おかあさん、僕は大丈夫だよ!僕には二人のおじいちゃんもいるし、たくさんのお友達と楽しく過ごしているから・・・。お母さんこそ、お兄ちゃんたち

や、僕の生まれ変わりとして生まれた弟とも、しっかり話をしてほしいな。そして、自分の人生を精一杯生きてって欲しいんだ。僕の分までね。」そう言ってほほえみ、手を振りながら僕はゆっくり空の上へむかった。

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