環境について

生きた川造り

「ほ、ほたるが飛んだばい」校長先生が息せき切って駆け寄り、満面の笑みを浮かべ驚喜された。その時、毎月の川掃除で汗を流していた私は、スコップを持つ手が止まり、走馬灯のように3年前の環境学習会の場面が脳裏を駆け巡った。  つぶらな瞳に凝視され、逸る心を制し「小学校の前の川で遊びたい?」と問うてみた。汚いと有名な川、勿論子ども達の答えは「汚い」「絶対にイヤ」の即答だった。数日後、子ども達の礼状に「ホタルが飛び交う川にして欲しい」とあり、「絶対に飛ばせてやるよ!」と心に誓った。それからが私たちの自浄作用ができる「生きた川造り」の始まりだった。

 コンクリ二方張りの川に酸素が供給できるよう牡蠣殻でS字型の流れと段差を組み、淵や堰を作り、又ホタルの寝床のために砂砂利・土を入れ、岸辺には苔を植栽し、ワイン樽でビオトープを作ったりと、会員の智慧を出しあい、毎月の川掃除・水質検査も冬は雪の降る時も、猛暑には涼しい早朝5時起きで子ども達のためにと一縷の望みを託してがんばってきた。

牡蠣殻を使った河川浄化は、何といっても地元漁協が「全部持ってって」と敬遠した海の廃棄物でのリサイクルであり、一石二鳥の取組だった。それにCOD(化学的酸素要求量)7のきたない河川が牡蠣殻を投与しただけで1時間後にCOD2になったときは目を疑った。調べる所、牡蠣のカルシュウムは河川汚染の一番の原因、生活排水のリンと結合し・沈殿し、最後は自然消滅する。あまつさえこのカルシュウムを餌とする子魚やホタルの餌でもあるカワニナが定住し、又、殻のゴツゴツした表面に微生物が寄生し、食物連鎖が発生するという。これらの3つの効能が、川本来の事情作用を及ぼし、ホタルが飛んだのであろう。

地域住民の川に対する考え方も、この牡蠣殻投与と生活排水の改善を求めるチラシを子ども達と共に作成し、1軒1軒手配りした事で意識改革が出来つつある。

私達は環境学習会で「食物連鎖」の1枚の手書きの絵を持ち歩いている。地球上の全ての生物は共生していること、「水の循環」「食物連鎖」「地球上の大気の循環」全て明日はわが身に廻ってくるという事を教える。“生かされている「命」”そのことを理解したら、全ての生き物にきっと優しくなれるはずだ。最近の耳を疑うような虐待問題は、大自然の中で親子でふれ合い、その感触を味わった者にはあり得ない!  私の環境活動の起こりは、人生観までも変えた亡きわが子に学んだ「命」の価値。あの子の教えてくれた大切な「命」の礎が今の私の考えでもあり、行動でもある。

さて、「川は汚い」と返事をした子ども達、言わずもがな今では川のゴミを裸足で拾うほどの川の監視役であり、毎月の川掃除に共に汗を流している。そして彼らが夢に描くホタルの乱舞する川の実現に向かって共に進行中である。

 

読売新聞社「地球にやさしい作文・活動報告コンテスト」経済産業大臣賞受賞
2004年7月 松浦ゆかり

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